「用心棒」「椿三十郎」

NHK-BS2で黒澤作品一挙放送という涙がちょちょぎれるほど嬉しい企画をやってくれているので、ホクホク顔で堪能しております。
前回と今回は全黒澤作品中でも娯楽性においてトップクラスのこのシリーズ。

・「用心棒」

用心棒 [DVD]

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痺れるほどかっこいいド傑作。
偶に「椿三十郎の方がエンターテインメントしてて面白い」という評を見かけますが、騙し合いの頭脳戦、シーソーゲーム的面白さはこちらが上。本当に話がどう転がるかわからない!殺伐としたハードボイルドな雰囲気、立ち回りの凄み、主人公のクールさ、全てが最高。佐藤勝の音楽も「椿〜」がほんわかしたアレンジになっている分オリジナルの豪快でギラギラした格好良さが際立ちます。
脚本も圧倒的な出来ばえで、各キャラの立ち方、名台詞の数々はもとより伏線の張り方と回収の手際は鮮やかの一言。特に、単なる味わい系個性派キャラと思えた棺桶屋&亥之吉(加東大介のまゆ毛が…(T-T))が見事にラストの展開に絡んでくる構成は恐れ入りました。
三船敏郎もフェロモンでまくり、「この男は最強だ!」という有無を言わさぬオーラがむんむんです。ラストの十人斬りも圧巻ですが、特筆すべきは最初の殺陣、ちんぴら三人(弥七こと中谷一郎のヘアースタイルが…(T-T))をなで斬りにするシーン!身のこなしが正に神業。斬り終わってから刀を鞘に納めて立ち去るまでの一連の動作が、カット割りの妙と相まって鳥肌が立つほど素晴らしい。これは惚れるしかないでしょう。

・「椿三十郎

椿三十郎 [DVD]

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こちらも文句のつけようがない傑作。
ゴージャス感、全編を通しての愉しさは他の追随を許さない。「用心棒」は(小技を効かせつつも)"溜めて、爆発させる"カタルシスの醍醐味が身上なのに対し、こちら「椿〜」は息もつかせぬ見所の連打が特徴。見終わった後は異様にテンションが上がりまくり、夜なかなか寝付けませんでした(笑)。
個人的に大ヒットだったのは偉いおっさん三人衆(藤原釜足志村喬伊藤雄之助)ですね。いつものことですが。特に雄之助なんてね、クセモノだの狸だのと周囲の台詞で散々期待を煽っておいて満を持しての登場があのぬぼーとした馬面ですよ。「乗った人より馬は丸顔」とか、美味しすぎてもはや反則ですよ。そのくせ事態を穏便に収束させようと考えていた所とか好感度高すぎます。
用心棒から似たような役柄での続投となった喬&釜足は、なんとなく可哀想(喬のおっちゃんは「生きる」と「七人の侍」でかっこよすぎた反動かこのシリーズでは割と悲惨な感じの役回りです)。実際に悪事を働いているところが描かれていないのに、うろたえる所と成敗されるところだけ見せられるから不憫なんですかね。「用心棒」での二人の末路は結構陰惨な感じでしたが、今作の捕まってちびまるこちゃんのキャラよろしく顔に縦線入ったブルーっぷりは見もの。実に可愛い!
中でも全般にキュートさ最強だったのは釜足さん。しょっちゅうウロウロしてるところなんて「あんたは妻の初産を分娩室の外で待つ夫か!」と突っ込みを入れたくなるラブリーさです。あと、「寺に二階屋は無い!」と気づいた時の顔と「ひょわっ!」という謎の掛け声がイイです。マンガっぽすぎず真面目すぎずで絶妙の表現。まさに匠の技。こういういい味出せる俳優さんて昨今居ないのよね〜。