「もののけ姫」

 もはや五回目くらいの鑑賞だが、映像が素晴らしいので放映されているとついつい見てしまう。高校の時に現代文の授業で「風の谷のナウシカ」の原作マンガを扱い、サブテキストとしてこの「もののけ姫」を見たことを懐かしく思い出した。
改めて見ると本当にこれって「風の谷のナウシカ」の和風リメイク。物語や人物が設定を入れ替えただけでほぼ同じだ。もちろん完全な焼き直しではなく、宮崎駿の内部で拡大し続けるメッセージ性に対応させようとしたためか、話やキャラクターを多面的に描こうという試みが見られる。だが内容が複雑化したことによりかえって魅力がスポイルされてしまっていることも否めない。純粋な分「ナウシカ」の方が遥かに完成度が高い。
 例えばエボシ御前は明らかにクシャナ殿下と対応しているが、差別化を図るためか単なる悪玉ではなく慕われる指導者としての一面も描かれている。しかしあくまでクール・ビューティーな悪女を貫いたクシャナと、人々から慕われているところを中途半端に見せてしまったエボシ、キャラクターとしての魅力が勝っているのは明らかに前者だ。また、森の神々は人知を超越した神様らしい力があるのかと思いきや、なりばかり大きいだけでたいした活躍もせずに終わってしまうのである。文字通り猪突猛進するのはいいが人間より弱いというのは神様としていかがなものか。シシ神様に至ってはヴィジュアル的にヤックル君と大して変わらないため、ありがたみが薄い。どの神様も王蟲のような神秘性を持っていないのが悲しい(しゃべりすぎたのがまずかったような気がする)。何よりタイトルが「もののけ姫」なのにもののけ姫自体に魅力がないのが致命的。聡明さと慈愛を欠いたナウシカみたいなキャラクターな上に、あのルックスからして強さが最大の武器かと思いきや一般人のエボシ様に苦戦してるし…。
 また、物語面でも不満が残る。問題提起自体は「ナウシカ」に比べ複雑になったが、肝心の答えの方が進歩していないのだ。なにしろ、この物語で描かれた事件は結局何の根本的解決策にもつながっていないのである。話の進め方自体もまず結論ありきで、アシタカは様々な経験を経た上で自分なりの解答をみつけるのではなく、初めから「共生」を訴えている。だからどうにも同じ場所で足踏みをしているみたいな感覚が拭えないのだ。
 しかし考えてみるとこんな難しい問題を二時間ちょっとに収め、雑多なキャラクターを(設定を複雑にした上、一人にかける時間が短くなったため薄味になったのは確かだが)バランスよく見事に捌ききったのはお見事。これだけ不満点が出てきたのも、個々の要素が素晴らしい出来で「これさえ上手く処理していれば完璧なのに!」という”惜しい”感が一杯だからなのだ。映像演出は問答無用で素晴らしいので、もっと言いたいことを絞ってタイトな形にまとめれば恐ろしい傑作に仕上がったに違いない。
 でも結論としては、やっぱり「ナウシカ」の方がずっといいよね、ということではある。

もののけ姫 [DVD]

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