「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」

非常にウェルメイドな良作。感動の人間ドラマとしてめちゃめちゃ王道なストーリーをツボを外さずにしっかり演出しているので安心してみていられる。誰が見ても高い満足度を得られる作品です。反面アクとか強烈なインパクトとかはないので全体に薄味な仕上がり。この作品を記憶に残るものにしているのは、やはりアル・パチーノの演技でしょう。

ああもうアル・パチーノ、あんたには惚れるしかないよ!捨て鉢キャラを演じさせたら右に出るものなしですね。哀愁・眼力・演説と得意分野が三拍子揃ったおかげで絶好調。特に盲目演技は本当に見えない感じがして素晴らしい上に焦点の定まらない目が独特の色気を醸し出していて最高でした。これを見る前は「年取ってからのアル・パチーノはどうもなあ…。やっぱオスカーあげるとしたら「ゴッドファーザー」か「セルピコ」か「スケアクロウ」でしょ」と思っていたけれど、今回この作品を見て、年取ってもカッコよかったんだーと反省いたしました。全編通して良かったんだけど、中でもタンゴのシーンは白眉。私ならあんなロマンチックな口説かれ方したら待ち合わせていた彼氏なんぞおっぽりだしてパチーノについていきます(笑)。


クリス・オドネルは頑張っていたけど、役柄もキャラも演技も顔立ちも優しいお坊ちゃんすぎてアル・パチーノの相手役としてはちと弱い。どの場合でも「優柔不断にしてたらいつの間にか二進も三進もいかなくなったので、今更イヤとも言えないししょうがないから初志貫徹」みたいな、よく考えると融通が利かないだけじゃん的キャラクターは改善の余地があったと思う。少なくともあの悪ガキ三人組とはもっと仲良くしている描写を入れるべき。そうしないと最後の裁判で「友達は裏切れない!」みたいに強情を張る理由がわかりません。あと貸出禁止の本はいくらせがまれたからって貸してあげちゃダメです(←司書課程履修者としては見逃せないポイント)。最初は軟弱だったのが大佐との出会いで変化していくというコンセプトはわかるけど、ラストのオチにつなげるためには、最初のうちに少しだけでも骨のあるところを見せた方が説得力はあった気がする。


不意を突く出演で思わず笑ってしまったのがフィリップ・シーモア・ホフマン。「高校生」という爽やかの代名詞的な存在の対極に位置するキャラだと思ってたのに(←失礼)、堂々と高校生してました(当時25才。ちょっと図々しくない?)。奴にもこんな時代があったとは…。しかし、流石に上手いです。情けな〜い感じを絶妙にほほえましく演じていてグッジョブ。いかにもアメリカ的楽天主義でともすればシラケそうになる裁判のシーンがギリギリのところでリアリティを保っていたのは、ホフマンの的確なダメ学生演技に負うところが大きいと思いますね。