「スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー」(2004年、米・英・伊)

 1939年の世界を舞台に、エースパイロットのスカイ・キャプテンと新聞記者ポリー・パーキンスがマッドサイエンティストのトーテンコフ博士による陰謀を砕くために活躍するSF冒険活劇。ジュード・ロウグウィネス・パルトロウ主演。ケリー・コンラン監督。
 久々に新しめの映画を鑑賞。公開前、予告の映像を見てかなり期待してはいた。さしたるヒットも飛ばさなかったことから「イマイチだったんだな」と思っていたものの(笑)、一応気になる存在ではあったのでDVD化を待って見てみたわけである。
 ・・・微妙なことは微妙なのだが、正面きってけなす気になれない不思議な作品だった。
 監督が素人同然なので、映画技術は稚拙である。最初のうちは本当にどうなることかと思った。せりふはぎこちないし、あまりにアニメアニメしているCGも不自然極まりない。なにしろ編集が下手で、画面にメリハリが無い。予告編であれだけフィーチャーされていた巨大ロボットが本筋にほぼ無関係と言うのもなんだか笑ってしまった。
 だが、監督がコツを心得てきたのか(それともこちらの感覚が麻痺してしまったのか)、物語が展開するにつれて面白さが増してくる。「ここでこうすればもっと盛り上がるのに・・・」と思う歯がゆい箇所もいくつかあったが、結局最後まで飽きずに見通すことが出来た。始めは苦痛だったマッタリ感がだんだん心地よく思えてくるから恐ろしい。
 ただ、個人的に不満だった点が二つある。一つは、グウィネス・パルトロウの演技。クラシカルな美貌とたたずまいは映画の空気にマッチしていてとても良いのだが、いかんせんリアクションが弱すぎる。どんな状況でもすまし顔なので面白みが無いのだ。なんていうか、こう、もっとおきゃんな感じにして欲しかった。動作ももっさりしていてとろい。動きがきびきびしてはじけるような笑顔の一つもあったらキャラクターの魅力がぐっと増したことだろう。フランク・キャプラの名作「オペラ・ハット」のジーン・アーサーは、大人の色気と可愛らしさを両立させた絶妙な魅力を持っていたことを改めて思った。
 二つ目は、オマージュの方向性。引用されているのは「オズの魔法使」「キング・コング」「フランケンシュタインの花嫁」「007」「スター・ウォーズ」などである(他にもいろいろありそう)。着眼点は悪くないし、それを表現する特撮も凝ってはいるのだが、そのやり方がどうもいびつなのだ。これらの作品の特撮は、現在から見るとチープで、合成だということがバレバレなものである。しかし、未発達の技術の中でそれらを本物らしく見せるために数々のアイデアと工夫がつぎ込まれ、結果として現在でも見るものに感動を与えうる素晴らしい映像が出来上がったのだ。だが、「スカイキャプテン」ではこの「本物らしく見せる」努力を破棄し、昔のチープさへの愛着だけが先行しているように見える。これは、本物らしさを目指した本家とは正反対の、ニセモノらしさをわざと狙った姿勢だ。これをお洒落と捉えることも出来る。しかし、ニセモノをニセモノらしくチープに撮ったところで、本家の持つ輝きに勝てるはずも無いのである。
 ちなみに、思いっきり余談だが、この作品を見ていてグレゴリー・ペック主演の「マッケンナの黄金」を思い出してしまった。アドベンチャーものなのに編集の下手さでどうもテンションが上がりきれないところとか、音楽は良いところとか(ホセ・フェリシアーノのオープニング・テーマは名曲)、豪華キャストを無駄遣いしているところとか(エドワード・G・ロビンソンリー・J・コッブをあれだけで退場させてしまうとは!)、それでも特撮はこだわって頑張っているところとか・・・。
 いろいろ文句をたれてしまったが、全体としてみれば気楽に見るにはちょうどいい愛らしい作品。アンジェリーナ・ジョリーはカッコよかったし、珍しく有能な役のジョバンニ・リビシも坊ちゃん風味でよかった。そしてなにより、サー・ローレンス・オリヴィエ!実際に1939年当時(「嵐が丘」)の映像を使っているらしいが、こんなに素敵に見えるとは思わなかった。っていうかもとの「嵐が丘」を見たときよりずっと格好よく感じた。オズの魔法使い風の登場時ビジュアルが神秘的ではまりまくり。序盤、モノクロ風味でソフトフォーカスばりばりの映像ではいまいち魅力を生かしきれなかったジュード・ロウが後半に入って画像がクリアになるにつれ生き生きしていったことを思うと、ロウには申し訳ないが、やはりオリヴィエとの役者の違いを感じてしまう。ソフトフォーカス&白黒の画像は、強烈なスターオーラを持つものだけを選ぶ濾過装置なのである。