「影なき狙撃者」(1962年、米)

 IMDbでの評価が異様に高かったので気になって借りてみた。なるほど、こいつは確かに面白い!IMDbではなぜか「Sci-Fi」というジャンルにも括られていたが、もちろん宇宙をびゅんびゅん飛び回る類のものではなく、基本は社会派サスペンス・スリラーである。冷戦モノ好きな方には特におススメ。「ここに共産党員のリストがある!」と議会で叫ぶマッカーシーそのものな人物も登場する。
 まずストーリーが良く出来てる。ミステリアスなオープニングで掴みはバッチリ、徐々に謎が解けていく作りは非常に見ごたえがあり、ミステリ的な面白さがある。作中で使われている手法(トリック?にしてはネタを割るのが早い)は今となってはありがちで少々安っぽい印象だが、これが恐らく元祖、ということは考慮すべきかも。それに全編を貫くシリアスなタッチが有無を言わさぬ説得力を持っているのでまったく問題なし。ラストも凄く悲しい無情なオチなので胸にずーんと来る。
 そして、映像に力がみなぎっているのが素晴らしい。中でも主人公たちが悪夢として見る幻覚シーンは出色の出来ばえだ。不気味さ抜群のモノクロ映像は相当な迫力である。今見ても十分に面白いし、もちろん当時の映画としては前代未聞の凝りに凝った作りだったことだろう。ちなみに家で鑑賞する際は「ながら見」してるとこの仕掛けを見逃してしまうのでご用心。他の部分の演出も見事で、終盤の狙撃に至る盛り上がりはまさに「ジャッカルの日」か「知りすぎていた男」さながら。思わず手に汗握ってしまう。
 あと、アンジェラ・ランズベリーが凄い!以前には「ガス燈」とか「ナイル殺人事件」でしか見たことがなく、また「ジェシカおばさん」などから”口うるさいけどかわいいおばあちゃん”的イメージしかなかったので、今回の役柄には口あんぐり。実は演技派じゃないか…。DVDの特典映像に入っていたフランク・シナトラらのインタビューでは、彼女に関する衝撃の事実が明らかにされます。
 ただこの作品、二点ほど問題がある。一つはジャネット・リーのキャラクター。あれ、いらないでしょう。本筋に殆どと言っていいほど絡んでこないし。彼女の出番を丸々なくせばよりストイックでタイトな仕上がりとなったはず(別にジャネット・リーが悪いと言うわけではないけど)。二つ目はフランク・シナトラとヘンリー・シルヴァの格闘シーン。映画の中で披露された空手としては最初期のものになるらしいが、どう見ても「ピンク・パンサー」のクルーゾーとケイトーにしか見えません。確かに迫力はあるのだが…。他のパートのシリアスなタッチと比べて異様に浮いた仕上がりになってます。