「砂の女」

 安部公房ファンとしてはいつか見なければと思っていた映画。やっと見られました。
最初のうちは判子をべたべたっと押してスタッフ・キャストを紹介する独特のオープニング(英語・仏語表記も併記されていたので、最初から海外を視野に入れていたのですかね)、脳ミソに響く武満徹ミュージック、そして何より生き物みたいに妖しく変形を繰り返す「砂」の映像の美しさに目を奪わる。全てが原作を読んだときにイメージしていた通り。かなりの傑作の予感がした。
 しかし後半がイマイチ盛り上がらない。いや、これは凄く高い水準の話で、決して悪くは無いんだけど、やはり原作に比べると見劣りがしてしまうと言うか。この原因をなんとなく推測すると、原作にあった中盤の「万策尽き果てた」感が不足しているせいではないだろうか。原作の中盤の展開は細々したエピソードや心理的葛藤が多いので、映画にする際に省略するのは自然である。しかし、あらゆる手を尽くしても脱出かなわずどんどんのっぴきならない状況に追い込まれていくあの焦燥感・サスペンスが無ければ、ラストに向けての主人公の変化がいささか急になってしまう。そこのところがちょっと物足りなかった感じ。
 総合的に見るとやっぱり原作に軍配を上げたいのだけれど、映画版で凄いと思えたのはやはり「砂」、そして岸田今日子!現在の齢を重ねてのあの妖気は納得がいくにしても、この若さ(当時34歳)であの妖しさを出せると言うのは何なのだろうか。「秋刀魚の味」の時はまだ普通っぽかったのになあ。
 難癖つけてしまったが傑作であることに変わりは無いのでおススメ。海外での評価もやたらと高いく、日本を代表する映画の一本です。原作も最高に素晴らしいので未読の方はぜひ!
 あと、気づいてしまったのだが、岡田英次ってもしかしてダイコ(以下略)。

砂の女 特別版 [DVD]

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