「地下鉄のザジ」

おフランスなCDを聴いてすっかり気に入ったので、これも「プレイタイム」や「アメリ」と同じノリかな?と思い見てみました。


結論から言うと、違いました(爆)。
おフランスコメディーなのに、致命的にオシャレ度(エスプリ度)が低い。今まで見たフランス映画の中で一番泥臭いかもしれません。ちょっとギャグがあざとい、というか、わかりやすく作りすぎている気がするんです。一つ一つのギャグは、もっとサラッと見せてくれてもいい。開始後十分くらいは猛烈なハイテンションぶりが面白くってわくわくしたけど、以降はもう飽きてしまっていけない。これはギャグのパターンが少ないことが最大の原因でしょう。一見多彩に見えますが、実はほとんどがモンタージュやコマ落としなどの映像トリック、もしくは楽屋落ちというカテゴリーに含まれてしまう。バリエーションが極めて貧困なためにすぐ飽きてしまうんです。
私はバスター・キートンの映画が大好きなのですが、今から80年以上も前に作られた彼の諸作品は今でも新鮮な輝きを放っています。それは作品の中で使われているギャグが選び抜かれたアイデアを満載したものだからでしょう。編集や特撮の妙で魅せる映像トリックを使ったものはもちろん、肉体を使った派手なアクロバット、字幕を利用したダジャレ、それに考えオチのような捻ったシチュエーションギャグまで、とにかく種類が豊富なんです。しかもそれらはギャグを出すタイミングから他のギャグとのつながりまで非常によく練られ、工夫された代物。厳選されたアイデアだけに今見てもまったく古臭くなく、むしろ驚くほどに新鮮なんです。サイレントという制約があるからこそ、現在のコメディー映画よりも遥かに実験精神に富んだギャグの数々が生み出されたのかもしれません。
もちろん「ザジ」にはそういったサイレント時代のスラップスティックにたいするオマージュという要素もあるでしょうから、一概にキートンのコメディーと比較するのも不適切かもしれません。しかし、仮にもコメディーという形式を取っている以上、もう少し観客を笑わせる努力をするべきではないかと思うのです。この映画、見ているとヌーヴェルヴァーグの流れの中にあって、観客を笑わせることよりも実験的な手法を使うことにばかり重きを置いてしまった感があります。そこが残念。ザジのキャラクターやパリの風景、それに映画全体を貫く出所不明のエネルギーはかなり面白いので、ギャグを練りこんで「量より質」を重視したつくりにすれば引き締まったつくりになり、ケッサクになったのではないでしょうか。
 …とまあここまでさんざんこき下ろしましたが、もしかしたら二度目を見たら手のひらを返したように「面白い!」という評価に変わるかもしれません。それというのも、見るたびに評価ががらりと変わった映画が二つあり、そのどちらも遊び心というかテンションの種類が「ザジ」に近いものがあるからです。「ムーラン・ルージュ」ははじめて見た時は「なんてクドイ映画だ!」とまったく楽しめなかったのですが、それは濃いーいイタリア料理を食べて胸焼け状態の時に見たからだと判明、改めて見たら独特のノリがかなり面白く、酷評しちゃって申し訳ないことをしたなァと思ったものです。そして「007/カジノ・ロワイヤル」は初見時には「なんてばかばかしくって(※褒め言葉です)面白い映画なんだ!」と大興奮、ところがDVDを買って二度目に見た時にはギャグが冗漫でまったく面白くなく、こりゃあ失敗したかなと思ったのですが、三度目に見たらまた面白かった。これなんか180度どころか360度評価が変わってしまった作品です。「ザジ」も目指している方向性みたいなものはわかったし話の着地点も判明したので、二度目はもっとこの作品にあった見方が出来るかもしれません。二度目もつまらなかったら、たぶん合わないってことなんだろうなとは思いますが(苦笑)。
 監督のルイ・マルは授業で「42丁目のワ―ニャ」を見たことはあるのですが、こちらはおもしろかった。たぶん渋めな作品の方が得意な人だと思うので、代表作である「死刑台のエレベーター」は見るのが楽しみです。
ちなみにこの作品でザジの伯父さんを演じているフィリップ・ノワレは「ニュー・シネマ・パラダイス」のアルフレード役の人です。「ザジ」の時はまだ若くて、ウォルター・マッソーにも似たアクの強さがくどい(笑)。個人的には年取ってからのほうが好きです。

地下鉄のザジ [DVD]

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