「ハウルの動く城」

前評判が悪かったので期待せずに見たら、かなり面白い作品だった。


まず素敵なのが、靄の中から姿を現す巨大な「動く城」と、それを見ても驚かない羊たち(笑)。世界の雰囲気が一発でわかるナイスなファーストシーンです。
で、前半は微妙。かわいいんだけど、面白いんだけど、別に宮崎駿に求めてるのはこういうものじゃないんだよなあ…という感じ。と思っていたら、後半爆発的に面白くなった。ストーリーは破綻しているように見えて意外と筋は通っているし、ある程度は納得できる。そうした理屈面よりも、ファンタジーらしいセンス・オブ・ワンダーが全編通じて保たれていたのが何より素晴らしかった。


最初のうちはこの話、今までの”宮崎駿的”なものから極力離れたところを目指して作り始めたんじゃないだろうか(新境地開拓が目的?)。愛らしいけれど脱力系のディテール(この「脱力系」という言葉ほど宮崎駿に似つかわしくないものは無いのではあるまいか)の魅力で構成された前半はそのことを特に物語っているようだ。ソフィーの一連の老化ネタ、マルクルの変装など。原作は読んだことがないのでわからないけど、原作の世界観を”駿的”なモノより優先させた結果なのだと思う。この作品はたぶんそのまま、肩の力の抜けた「愛すべき小品」てな感じの作りで最後まで行く予定だったに違いない。


少なくとも最初のうちは(爆)。


ところが作品作りを進めていくうちに、宮崎駿の監督としての本能(癖?)が「そんなヌルい仕事やってられるかあぁっ!!」とちゃぶ台をひっくり返したようだ。それが証拠に、後半に入ると、初めのうちこれでもかと繰り出してきた魅力的な(しかし宮崎流クライマックスには思いっきり不要な)ディテールがバッサリと切り捨てられ、小さく可愛らしい雰囲気は失われる。その代わりにそれまで封印していたいつもの宮崎流、ダイナミックかつ華麗な”破壊と再生のクライマックス”が爆発。(もちろんソフィーの容姿も婆さんからいつもの宮崎ヒロイン的美形に固定されたままとなる。それは物語上そうなったというより「このクライマックスを演じるのが婆さんではビジュアル的に様にならない」という判断によるのではないだろうか。そしてその判断は間違いなく正しいのだ)。しかも余計な説明を省き、ほぼ映像イメージのみで物語を進めるという暴挙に出て、結果、見事それを成功させてしまったのだから凄い。実際、この作品のストーリーを文字で説明しようとするとバランスを欠いて盛り上がりに欠けるかこんがらがって意味不明となるが、映像さえ見ていれば物語がイメージとしてすんなり頭の中に入り込んでくる。ぞくぞくするような映像でしっかり盛り上げることさえ出来れば、それで十分だとでも言わんばかりに。


全体としてみると、宮崎駿の新境地開拓という試みとしては失敗(笑)、いつもの宮崎アニメを期待すると宮崎汁の配分は前半20%後半80%なのでイマイチというなんだか中途半端な結果になるが、ビジュアルイメージがそれを補って余りあるくらい凄いので問題なし。
とりあえず、魔法を道具としてしか使わず中身は単なる学園モノになってしまったハリー・ポッターシリーズ(このシリーズの中でファンタジーらしいワクワクするようなイメージとなっていたのは一作目の、煉瓦の壁が割れてダイアゴン横丁につながるシーンだけだ)よりもはるかにファンタジーとしての自由奔放なイマジネーションに溢れた作品である。


それはそれとして個人的に心を奪われたのが、神木隆之介の声。可愛すぎだよ…。

ハウルの動く城 [DVD]

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