「彼岸花」

小津さんの長編は「東京物語」「秋刀魚の味」に続いて三本目。相変わらず面白い。
映像の美しさや役者さんたちの癒し系オーラの素晴らしさもさることながら、小津作品の魅力はやはりすっとぼけた下世話な会話にこそアリ。どう考えてもセクハラすれすれの話をおっさんたちがこっそりしてるわけですが、それがなんだかほほえましくておかしい。小津さんの映画の凄いところは、普通の映画なら絶対に切り捨てられるような要素ばかりを拾い集めて、それを最上級に魅力的に仕上げるところですね。その分、普通の映画なら見せ場になるところも小津さんはちゃっかりスルー。今回も山場であるはずの娘の結婚式シーンがさりげなく素通りされてたのでびっくりしました(笑)。
役者さんたちも相変わらずグッジョブ。不自然なまでに自然な(笑)独特の小津タッチにしっかり合わせた演技を見せています。
笠智衆は今回主役じゃないのかーと思って残念だったけど、脇でさりげなく良い味を出してました。今作では詩吟を披露する意外な見せ場アリ。いい声です。上手いです。理想のおじいちゃん。
佐分利信は最初あの仏頂面がなーんか冷たいなーと思っていたけど、これが物語が進むにしたがってだんだん可愛く見えてくるのが不思議。俗に言うツンデレ(笑)? っていうかさ、娘の婿、唐突に会社に押しかけてくるとはいえ、佐田啓二だぞ。あんな爽やかで真面目そうで二枚目な青年が娘の結婚相手だったら、反対する理由なんてどこにもないと思うんだが。私が佐分利信なら即OK出します。余談だが、私はこの「佐分利 信」(さぶり・しん)を最初「佐分 利信」(さわけ・としのぶ)だと思っていた。もしやと思ってGoogleで検索したら、やっぱり間違えてる人がいました(笑)→http://dvd.eigaseikatu.com/list/210230/
この作品、話自体はまあ、例によって例のごとく、いつもと同じようなわけなんですが、注目すべきは主人公が友人二人と一緒に料亭に行くシーン。普通に見てればおっさん達の助平話がしょーもなくて面白いな〜ぐらいの感想しか湧かない軽いノリのシーンなんですが、なんだか妙に既視感が…。実はこれ、「秋刀魚の味」にもこれとそっくりのシーンがあるのです。おやじ三人(メンバーは主人公+中村伸郎 ・北竜二 )なところも、助平話で盛り上がってるところも、場所が料亭ってところもそっくり。っていうかほぼ同じ。狙ってやったにしても大胆すぎるよ小津さん。しかもこの料亭「若松」もそこの女将さん(高橋とよ)も「秋刀魚の味」とまるっきり同じ。調べてみたところ「秋日和」でも同じ「若松」と女将さんが出てくるらしい。凄いな…。そんなところでリンクしていたとは。個人的には口髭のおじさん北竜二が大好きです。特に「秋刀魚の味」での「いいんだよ…」は名台詞。

参考リンク:・小津監督って自身の作品に出ても全く違和感無さそうな味わい深くて上品なお顔だったんですね。→小津安二郎生誕100年記念 The Yasujiro Ozu 100th Anniversary
      ・こちらのサイトは目の付け所がディープで面白いです→http://homepage.mac.com/jinqi/index.html

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