「キングダム・オブ・ヘブン」

久々に正統派の史劇大作を見たという感じ。「十戒」とか「ベン・ハー」とかの黄金期の作品に近い風格が感じられて良かったです(ただ、時々どーしても「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」を思い出して「ここで聖なる手榴弾を」とか余計なことを考えてしまった)。さすがリドリー・スコット。端正な作りで、ツボを心得てます。話の運びの丁寧さや寓話性、それに全体的な優雅さは「グラディエーター」より上でしょう。
タイトルとかキャストから地味めの眠くなりそうな話を想像してたんですが、結構な長丁場を全く飽きることなく見ることが出来ました。面白いです。なんと言っても特筆すべきは映像の美しさ。エルサレムの風景にしろイスラム美術にしろ十字軍のコスチュームにしろ全てがとんでもなく綺麗です。ワンシーンワンシーンがまるで宗教画のよう。鎧や剣もカッコイイし、画面を見ているだけでも夢中になれます。私は各シーンを食い入るように見つめてしまいました。ストーリーも無駄が無くテンポが速い。主人公バリアンがまるで「わらしべ長者」か何かのようにとんとん拍子に出世していく展開は、最近珍しい彼のまっすぐな性格と共に御伽噺の見るような爽快さを与えてくれます。一つの出来事が終わったら「ハイ、次ー」って感じであっさりサクサクと流れ作業のようにイベントをこなしていく様はなんだか笑えましたが。あと、派手な肉弾戦よりも俯瞰で状況を見せる戦闘シーンは新鮮で面白かったです。
オーランド・ブルームは頑張っていましたがやはりまだちょっと線が細いかな。史劇大作を背負って立つにはキャラが弱い感じです。まあ、高貴な顔立ちと爽やかさがあるから問題ないんですけどね。欲を言えば5年くらい後の貫禄+演技力を増した状態で演じてほしかったかも。リーアム・ニーソンはこのところなんだか同じような役ばかりですね。この作品の撮影セットの隣で「バットマン・ビギンズ」撮って掛け持ちしてたとか言われても信じられそう。エドワード・ノートンは顔出ないし弱弱しいしでオイオイ大丈夫かって感じでしたがキャラクターの凛々しさを見事に表現する声の演技とたたずまいは流石でした。彼が演じたボードワンⅣ世と、そのライバルであるイスラムの勇士サラディンはキャラクター自体がとてつもなくカッコイイです。惚れます。まさに英雄。
それにしても時期的にずいぶん大胆なネタですよね、これ。宗教を理由にして自分の命を捨てたり他人の命を奪ったりするっていうのは無宗教の日本人な身としては全く共感できないことだったので、この映画の中で主人公が口にする考え方には激しく首肯させてもらいました。でも、キリスト教ユダヤ教イスラム教の信者の人はこの映画を見たらやはりまた違ったことを思うんでしょうかね。感想をちょっと聞いてみたいです。