同じくトム・ストッパードの「自由人登場」読了。処女作だけどイマイチ、みたいな評判を聞いていたが、そんなことは無く、じゅうぶん楽しめる出来だった。話の設定は、甲斐性なしな発明家のパパさんが主役ということでイプセンの「野鴨」を思い出す。でもそこまでシビアではなく、もっと身近なだけに身につまされる感じ。これは「夢の死」を描いた物語だ。就活が終わった身でこの話を読むと、もー夢みたいなことばっかり言っているフリーターの主人公ライリーにも、現実的に地道に働いて家計を支えつつささやかな夢を見る娘のリンダにも感情移入しまくり。どっちの気持ちもわかるだけに、この二人の衝突がつらいつらい。ママさんのパーセフォニーは、控えめで強い自己主張が無いお飾り的な人物と見せかけて実はいちばん思いやりがあり、全てをしっかり理解しているという点で小津映画のお母さんっぽい感じ。あと、全体的には二つの世界の交錯という舞台設定にストッパードらしさが現れているように思った。