「THE有頂天ホテル」

うーん、確かにこれだけのエピソードと人物を捌ききったのは凄いけど、出てくるキャラクターが魅力的じゃないのであんまり楽しめませんでした。っていうか登場人物多すぎ。半分にしてその分人物描写に時間を割けば、その方がどれだけ面白いものが出来ただろうか。特に伊東四郎の扱いは酷いでしょう。彼に限らず、全体に女性陣が優遇されすぎてて男性陣が冷遇されていたのがオッサン好きとしては不満至極。
なんていうか、細部に凝りすぎちゃって大筋がおざなりになっちゃった感じとでも言いましょうか、えらい不完全燃焼です。例えるなら、飾りはゴージャスでたくさんあるけど本体は寸詰まりな小枝で出来てるクリスマス・ツリーって感じ。三谷幸喜はしっかりした本筋の上に強烈な小ネタを絡ませる手腕が巧みだったはずなのに、最近はその評判の良かった小ネタばかり肥大して肝心の主筋が薄っぺらになっているような気がします。しかもバランスが悪いせいでその小ネタまで面白みが殺されている始末。主筋を盛り立ててこそ面白さが生かされる小ネタでしょうに。序盤は小気味よく連打されて笑えたネタも、中盤すぎるとテンポが同じなので飽きます。
思うに、舞台では無茶なシーン転換や場所の移動が出来ない分、ストーリー展開を工夫することで盛り上げていたところを、その点が自由な映画では好き放題やった結果しまりのない出来上がりになってしまったんではないかと。同じ群像劇でも魅力的なキャラクターあり、思想の衝突あり、最後に向けて話が一つにまとまっていくダイナミックな展開ありで面白かった「ラヂオの時間」(元は舞台作品)と比べれば、その完成度の差は一目瞭然です。「三・一致の法則」も名作を生む要素として案外捨て置けんなあと思いました。
物語に発展性がないのもマイナス。基盤となる設定の上に積み木のように色々な要素を積み重ねていくスリル・醍醐味が無く(例えば討論でも、複数トピックを一言で解決するより、一つの題材を前にあーでもないこーでもないと他の発言を元に議論を積み上げて発展させる方が格段に面白いわけです)、地べたに整然と並んだ模様をどうどうめぐりで描いているに過ぎないんです。そこが盛り上がりに欠ける。物足りない!それを象徴的に表していたのが「自分の気持ちに正直に」というテーマの複数のエピソード。全員人の意見を鵜呑みにしすぎだよ…。
あと、三谷幸喜は絶対に群像劇よりタイマン勝負を描く方が向いてる。「古畑任三郎」とか「笑の大学」(←映画版は未見。舞台の映像は大学で見たら素晴らしかった)とか、いろんな要素を突っ込むごった煮よりも一つの要素をとことんまで突き詰める方が面白いのに…。

THE 有頂天ホテル スペシャル・エディション [DVD]

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