「ブレインデッド」(1992年、新西蘭)

 授業用資料だったので、大人数教室のスクリーンで鑑賞。画質はいまいちだったが、大きなスクリーンだったのが良かった。
 ご存知「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズを監督したピーター・ジャクソン出世作。ゾンビもので、一応ホラーという体裁をとってはいるものの、中身は完全にギャグである。死体を使って出来る全てをやりつくしたといった感じのブラック・コメディーだ。鑑賞中はかなり笑いがおこっており、中でも ・神父の戦い ・赤ちゃんゾンビの公園デビュー ・顔面ランプ ・叔父の肉切り包丁 などのシーンが受けが良かった様子。私もしっかり笑わせてもらった。
 カルト作としての前評判が高かったので、好みが合わなかったら苦痛だろうなと少し心配していたのだが、娯楽作として非常にしっかりした上品なつくりだったので、安心して楽しむことが出来た。序盤でつかみはOK、中盤は緩めの展開で伏線を張り、後半に加速度的に盛り上がって一気に畳み掛けるというのは、映画のつくりとして理想的なのだけれども、これが意外と難しいようだ。最近の作品は序盤からかなりのテンションですっ飛ばして期待させておきながら、後半盛り上がりきれず失速するパターンが多い。この「ブレインデッド」はその点がしっかりしていたので素晴らしかった。
 実は一番意外に思ったのはこの点である。いわゆるカルト作というのは、監督の趣味が前面に現れたものが多く、たいていは「俺の趣味についてこれるヤツだけついてこい!」といった趣のものである。そのため一部の人間にとっては熱狂的に支持できる作品だが、他の人間にとってはまったく面白くない代物となるのだ。そのような作品に顕著なのが題材の特殊性とその撮り方の特殊性である。一般的でないテーマを、非常に凝ったやり方で映像化する。それが強烈なアクとなる。しかし「ブレインデッド」は、題材が最上級のキワモノであったにもかかわらず、撮り方が至ってオーソドックスだったのだ。
 これがおそらくピーター・ジャクソンの強さなのだろう。自らの趣味を同じ嗜好を持つ人間とだけ共有するのに飽き足らず、一般人も納得させる普遍的な娯楽性を目指す。それでいながら題材のチョイスとアイディアの豊富さでマニアへの目配せも忘れない。より多くの人を楽しませようとする意識の高さはまさしくプロフェッショナルだ。「ロード・オブ・ザ・リング」のようなメジャーな超大作を扱う手綱捌きが見事だったのもうなづける。
 個人的には「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズよりも「ブレインデッド」の方が好きなので、ジャクソンにはこの手の作品もまた手がけて欲しい。「キングコング」も楽しみだ。 

ブレインデッド [DVD]

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