「深夜の告白」(1944年、米)

 「郵便配達は二度ベルを鳴らす」で有名なジェームズ・M・ケインの原作を、「三つ数えろ」の原作者レイモンド・チャンドラーと共にビリー・ワイルダーが脚色したフィルム・ノワール
 最初のうちはバーバラ・スタンウィック不自然な前髪が気になってしょうがない上に、主人公ウォルター(フレッド・マクマレイ)の回想形式ということで挿入される説明調のナレーションがくどくてなかなか物語に入ってゆけなかったのだが、保険金殺人の計画がスタートしてからは俄然面白くなってくる。中盤から後半にかけての主人公を追い詰めるサスペンスフルな展開の巧みさはビリー・ワイルダーの真骨頂。前半がやたらととんとん拍子に進んでいったのはこのねちっこい展開をじっくり描くためだったのかと納得した。ディテールのこだわり方もさすがで、マクマレイが片手でマッチを擦る動作がかっこいいなあと思っていたらちゃんと意味があったのには唸らされた。スタンウィック演じるフィリスがたびたび口にする「Straight down the line(きっちりやるわ)」という台詞は、フィリスとの出会いによってまっすぐに下降線をたどって落ちてゆくウォルターの運命を暗示していて恐ろしい。
 悪女の本性を顕わにするにつれて魅力を増していくスタンウィックの演技も見ものだが、小柄な体格とアクの強い顔でマシンガントークを繰り広げるエドワード・G・ロビンソンが本作品の立役者だろう。この人、もともと背が高くないのは知っていたが、今回はやたらと小さいなあと思っていたら、並んで立っていたマクマレイは191cmの長身だった。
 途中で気になったのが、ウォルターとフィリスがキスをするシーンでマクマレイが左手の薬指に指輪をはめていたこと。「ウォルターは独身の設定だったはずだし…マクマレイが自前の指輪をはずし忘れたのかな?」なんて思っていたら、IMDbのこの作品のトリビア欄の記事からこの想像が当たっていたことが判明。そんな大雑把なことでいいんですかい。
 一つの作品としてみても単純に楽しめるが、1950年のワイルダーの大傑作「サンセット大通り」のプロトタイプとしてみることも出来て興味深い。女によって破滅した男の回想という形式、愛が報われない女の悲しみ、ダークかつ皮肉たっぷりの雰囲気と、共通項が実に多いのである。こちらもまた見たくなってきた。
 本作の制作裏話に関しては、こちらのサイトが詳しいです。http://www.geocities.co.jp/Hollywood/5710/double-indemnity.html

深夜の告白【字幕版】 [VHS]

深夜の告白【字幕版】 [VHS]