「ラヂオの時間」(1997年、日)

 先日テレビで放映されていたのを思い出しながらレビュー。見たのはこれで三度目か四度目になるが、毎回同じところで笑ってしまう自分がいる。
 作品としては確実に良く出来ている部類に入るが、改めてみると演出があまりこなれていないことに気づく。初見時は脚本の完成度の高さと勢いで気にならなかった問題点も、いくつか見えてくるのである。一番気になったのは舞台的な画面を意識しすぎていることだ。その代表的な例が、同一画面の中で複数の出来事が同時に起こっているという画面演出である。手前の人物がメインの話をしている後ろで、遠くの人物がなにごとかゴソゴソとやっているのが、微妙なズレのおかし味を生む。これはジャック・タチの「プレイタイム」ぐらい極端に徹底している場合は異様なテンションが生み出されるのだが、この作品では観客のウケを狙いすぎてあざとくなり、結局どちらを見るべきか定まらない中途半端な状態になってしまった感がある。また、この効果は観客の登場人物に対する感情移入をも拒むものとなる。少なくとも物語の序盤は、カメラが焦点を結ぶ対象は一つに絞っておくべきだったろう。
 ただ、脚本は本当に良く出来ていた。特にいいのが人物描写。キャラクターを誇張しつつも「こんな人いるいる!」と思わせるリアリティーを失っていない。そのさじ加減が絶妙だ。プロフェッショナルとしての誇りと意地をしっかりと描いているのも素敵。最近の三谷作品に出てくる人物は笑い要素のためにこの部分が犠牲にされているようで悲しい。特異なキャラクターで笑わせつつもプロ意識が高い人物と言うのがカッコイイのだし、アツイ台詞を言ったときも泣かせてくれるのである。
 同監督の「THE有頂天ホテル」は、ある程度見たいと思いながらも「ラヂオの時間」程の期待感を持てないでいるのだが、今回「ラヂオ」を見てその理由がちょっとわかった。キャスティングの方向性だ。「ラヂオ」の出演者は確かに一流どころが揃っているのだが、どちらかと言えば脇を固めてくれる芸達者といった感じである。対する「有頂天ホテル」はピンで主役を張れるメジャーどころが勢ぞろい。これは脇役好きからすると、あまり食指が動かないラインナップで、面白みに欠けるのである。ちなみに私は、この作品では井上順、 並樹史朗布施明細川俊之おひょいさんがめちゃくちゃツボにはまった。こういう旨みのある役者さんたちなら何人出て来ようが大歓迎である。

ラヂオの時間 スタンダード・エディション [DVD]

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