「第三の男」(1949年、英)

 BS2のアカデミー賞特集で鑑賞。名作って凄い。いまだに頭の中はエビスビールのテーマで占拠されている。
 特筆すべきはやはりモノクロ映像の完璧なまでの素晴らしさだ。終戦直後の、さまざまな国に分割統治されたウィーンのなんともいえぬいかがわしい雰囲気をカメラはしっかり捉え、大変魅力的に映し出すことに成功している。荘厳で華麗な彫刻が当たり前のように街中の建物にあしらわれている様は、千葉の片隅に住んでいる身にとっては信じられない光景だ。その重厚な建物と戦争で破壊された廃墟とが共存することで生み出される独特のダークで空虚な美しさ。そして迷宮のような地下水道。臭いさえなければ、ちょっと迷ってみたいと思える(笑)。マンホールの形が奇妙で笑えるのだが、ウィーンではあれが普通なのだろうか?
 深刻で堅苦しくなりがちな題材を、随所にユーモアをまぶすことで面白く仕上げた脚本も秀逸。前半なんかはサスペンスなのかコメディなのかちょっと迷うくらいの面白さだ。これが狙った効果であることは音楽からもわかる。素晴らしきエンターテインメント精神。
 後半の恋愛模様もロマンチックで素敵☆ヒロイン、アンナを演じるアリダ・ヴァリの涙がきらりと美しい。女心は複雑ですね。普通に考えればホリーとくっつきたくなるものだが、ハリーがあまりに魅力的なので忘れられないのも良くわかる。うーん、大人の恋愛!憧れます。二枚目なのにヘタレ役が似合うジョセフ・コットンもなかなかの好演でした。

(以下ネタバレあります)
 私はミステリ好きな方だが、謎解きに関してはまるでセンスがなく、かなり使い古されたトリックでもころっとだまされてしまう。本作もよそのレビューをみると「映像は素晴らしいがミステリとしてはありがち」みたいな評価が大半だが、私はしっかりだまされました(笑)。ハリー生きてたのかよ!みたいな。まあそのおかげで目くるめく映像美とオーソン・ウェルズの圧倒的存在感に加え、謎解きも同時に楽しむことができたので大満足。得っちゃあ得な話です(笑)。恐るべきは私の母親で、開始20分ぐらいで「ハリーは実は死んでないんじゃないの」と真相を看破。私は「えー、死んでるっしょ」とか思ってたらオーソン・ウェルズだったのでびっくらこきました。さすが我が母、夕方のテレ朝サスペンスを子守唄代わりにしているだけの事はある…と思ったけど、もしかして見破るのが普通なんですかね…(汗)。
 あと、この作品ですんごく気になったことが一点。ハリーが登場するシーンの直前なのだが、アンナの部屋から逃げ出した猫・道を歩く猫・ハリーの足元にじゃれ付く猫がどう見ても同じ猫にみえません!全部違う猫という設定だと思って見てたせいでカットのつながりがわからなくなったし「ハリーにしかなつかないの」という伏線も最初は気づかなかった。あれを同一猫とするのは無理ありすぎ。猫好きとして一言言わせてもらうと、顔がかわいいのは足元にじゃれ付く猫、尻から太ももにかけてのラインがラブリーなのは部屋の猫です(何の話だ)。

第三の男 [DVD]

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