「日曜日には鼠を殺せ」(1964年、米)

 出演:グレゴリー・ペック、アンソニー・クインオマー・シャリフ/監督:フレッド・ジンネマンという超豪華かつ濃ゆいメンバーに惹かれて見てみた。オリジナル劇場予告編から渋いサスペンスものと想像して見始めたのだが、実際はかなり違った内容でやや面食らう。簡単に言えば、「モヤモヤした生からスッキリした死への物語」。宗教色が強く、ちょっと説教臭い話かも。
 序盤の数十分は話の着地点が見えてこないので本当に焦る。予告やキャストの顔ぶれから考えてグレゴリー・ペックVSアンソニー・クインのサスペンスのつもりで見ていると、それにしてはあまりに展開が緩やか過ぎ、なおかつグレゴリー・ペックがダメ男過ぎる。こりゃあちょっと違うかもと作品の方向性に対する認識を修正するため急いで頭を切り替えるが、流石ジンネマンだけあり演出が木目細やか、無駄にサスペンスフルなので画面に引き込まれてしまう。サスペンスなんだか人間ドラマなんだかはっきりしろい!ウガーとなりかけた頃、オープニングから頻繁に出てくる十字架や神父オマー・シャリフの役割にはたと気づき、宗教色の強い映画だと初めて認識(遅い?)。曲がりなりにもテーマ性を掴んで以降は、死に向かう男の贖罪と改宗をめぐる戦いのドラマとして楽しむことが出来た。クライマックスの一対複数の銃撃戦は「真昼の決闘」を彷彿とさせる(結末はだいぶ違うけど)。キャラクター同士の描写にかみ合わない部分があるが、退屈しない硬派なドラマだったので一応満足。
 ただ、アンソニー・クインの役割は中途半端だった気がする。基本的にペックの心情を描く話であり、彼と大して絡みがない(確認したわけではないが、ペックとクインは一度も同一画面上に現れない)人物にもかかわらず、無駄にキャラが濃いのである。こんなにキャラ立ちしていては火花散る戦いを期待してしまうではないか。ひょっとしたらこの二人は役を交換した方がよかったのではないだろうか。落ちぶれたゲリラの指導者クインと冷酷非情な警察署長ペック。うーん、こっちの方がかっこよさが際立つような気がするなあ。ペックは線が細いからゲリラって柄じゃないもの。ワイルドさ&哀愁を放つクインのゲリラVSクールな署長ペック……見たい。
※以下、チェックすべきポイントをいくつか。
○本編とは関係無しに驚かされたのがシャリフのヒゲ無し顔!「アラビアのロレンス」の二年後の作品なのに、こちらの方がずっと若く見える。ただしダンディ度は大幅ダウンしているので一長一短といったところ。あと、「ジャッカルの日」でルベル警視を演じたミシェル・ロンズデールが最後の方でちらりと出演していたのは嬉しい驚き。この人もヒゲがない状態(!)だったのでなんだかなあという感じだが、もっさりしたほっぺたと下がり眉は相変わらずかわいかった。
○スペイン警察の描写が珍妙なものばかりで笑える。台形の黒ヘルメット(ナポレオンの帽子をメタリック&寸詰まりにしたみたい)のかっこ悪さはどうしたことか。しかも敬礼のポーズが「アイーン」て…。
○この作品、見終えた後の感触が何かに似ていると思ったら、ルネ・クレマンの「狼は天使の匂い」とちょっと通じるものがあったことに気づいた。これは高校時代に国語の授業で見た作品で、当時は大人な味わいと少し難解なつくりに面白さを見出すことが出来なかった。今見ればこの作品のよさを味わうことが出来るだろうか?「日曜日には鼠を殺せ」ともども、十年後にまた見てみたい作品である。おそらくそのときには、私も大人の味をより深く味わうことが出来るようになっているだろう。

狼は天使の匂い [VHS]

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