「スーパーマン リターンズ」

友達と一緒に渋谷に見に行きました。感想(ネタバレは反転部分)。


感動・シリアス路線のSFアクションとしてはとても良く出来ている。

しかし、これはスーパーマンではない。

いや、出来自体は本当に良いんですよ。イベント盛りだくさんで二時間半の長尺は気にならないし、映像も綺麗。そして話の転がし方が、うまいこと目を離せないように作ってあるんですなこれが。中盤からちょっとトイレ行きたくなったんですが、物語展開上必要なシーンと見せ場の配分が絶妙なんでタイミングが難しく、結局席を立てなかったくらいだから(笑)。なにしろ、面白かったです。
ただ、後半過ぎから見てるうちになんつーか違和感が…。
「これ、わざわざスーパーマンを使ってやる話じゃないんじゃ?」みたいな。
やってることの規模のでかさは間違いなくスーパーマンなのに、大まかなストーリーラインがダイナミックじゃなくてどこにでもありそうな感じなのだ。特にロイス子供がガートルード号の船倉?みたいなところに閉じ込められる場面で、「あー、これってパニックものとかアクションものによくあるシチュエーションだよね(=スーパーマンいなくても何とかなりそう)」と思ってしまった所からこの疑念が頭をもたげ、ラストに向けてのスーパーマンがボコボコにされたり病院に担ぎ込まれたり、といったシーンで「これ、他のヒーローものでは燃えるんだろうけど、スーパーマンでは見たくない展開だよなあ…」と思って引いてしまいました。暗いんですよ…微妙に。
リチャード・ドナー版の「スーパーマン」を見た直後だから特にそう思えたのかもしれないけど、スーパーマンは基本的にノー天気で底抜けに明るいキャラじゃないと受け付けない。なにしろあのこっぱずかしいコスチュームですよ。あの晴れがましいジョン・ウィリアムズの名テーマ曲ですよ。明るくなきゃおかしいでしょ。ただ、ド派手コスチューム+マッチョ+ノー天気だけだと確実にアホっぽくなってしまうので、そう見せないようにドナー版では”いつでも粋なユーモアを忘れない紳士”という魅力を大プッシュしてたのではないかと思う。それがクリストファー・リーブの雰囲気と相まってあの素晴らしいキャラクターが生まれたような気がします。
今回の「リターンズ」のスーパーマンは(演じるブランドン・ラウスが新人なので初々しさを活かそうと思ったのかもしれないが)、真面目で頑張っている好青年なんだけど、その分大人の魅力が足りない。全体的に”大人の余裕”みたいなものが感じられません。やっぱり悪者退治した後で野次馬とかお巡りさんに向かって洒落たジョークの一つも飛ばす余裕が欲しいよね。全体に活躍シーンで笑顔が少ない。スーパーマンが必死だと、見てるこっちも大船に乗った心地で応援できないじゃないですか。
あと、なんとなくアメコミは「スーパーマン=陽のヒーロー」「バットマン=陰のヒーロー」「スパイダーマン=共感できるヒーロー」という住み分け・役割分担が出来ていると思っていたので、今回の悩めるスーパーマン像は意外でした。だって、悩めるヒーローに共感する醍醐味って既に「スパイダーマン」が極上のものを作っちゃってるのに、わざわざ同じ路線にしなくても!これはスーパーマンの守備範囲じゃないはず。そんなところが期待してたものと違って、なんだかモヤモヤしたものが残ってしまいました。

ケヴィン・スペイシーも期待していたんですが、正直「超ハイクオリティーなやっつけ仕事」といったところです。手加減してこのレベルってのは凄いけど、本気出してよ…みたいな。ルーサーのキャラ設定自体がイマイチだったのでこれは仕方ないかも。一応悪玉のボスなのに出番少ないし(存在感でカバーしてる感じ)、お茶目度がジーン・ハックマンに比べて激減。もっとはっちゃけてほしかったなあ(スーパーマン鞍馬天狗にたとえると、ハックマン版ルーサーは近藤勇、スペイシー版ルーサーは土方歳三、といった感じのキャラクター性の違いがありますね)。ロイスの前で”演説”するシーンのパフォーマンスの巧さは流石で一見の価値アリですが、全体に盟友シンガー監督の道楽にお付き合いしたという雰囲気です。
あと、ルーサーの部下たちは数こそ増えたものの、全然キャラが立ってないので正直いらない感じです。オーティスって大事だったんだなーと痛感しました。やっぱり映画的に面白いのは三人の一般人より一人のおバカ、これです。

※そういえばこの映画、過去のスーパーマン作品はもちろんのこと、SFファンタジー系映画へのオマージュと思しき要素が山ほどあります。隕石着地跡は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、機内の無重力描写は「2001年宇宙の旅」(または「コンタクト」)、ガトリング銃の強盗は「ターミネーター2」、ロイスとの空中デートはディズニーの「ピーターパン」(これは「子供のおとぎ話」じゃなかったのか!?)、おまけに「天空の城ラピュタ」までありました。あと全体的に大きな影響を与えたと思われるのが「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」。オープニングの宇宙空間の描写はもとより終盤の展開がかなりかぶってました(スーパーマンの危機を察知したロイスが「戻って」というところとか、意外な親子関係とか)。そういうところを探すのはなかなか面白いです。

細々文句書いちゃったけど、これも出来がいいからこそなんだよなあ。名前とコスチュームとテーマ曲さえ違う別のオリジナルキャラだったら手放しで褒められるんですが。総括すると、シンガー監督のユーモアセンスの無さが致命的かと(脚本や役者の演技は良いのに、演出がイマイチで爆笑に至らず寸止めされたギャグシーンがいくつかあった)。今までのフィルモグラフィー見ても、真面目そうな人だもんね。ロイスがファックス送るシーンのサスペンス演出は地味ながらかなり良かったので、やっぱそっちの方で活躍した方が良いと思います。次回作がありそうな雰囲気ばりばりだったし、キャスト自体はかなりはまってたんで、次をやる時はシンガーは製作総指揮、みたいな形で、もっと明るい作風の監督さんにバトンタッチしてほしいなあ。