「ブロークバック・マウンテン」

久々に当たり!の映画。ワイオミングの美しい大自然、じっくり練られた脚本、上品で丁寧な演出、主役二人の完璧な演技、そしてラブリーな羊、どれも素晴らしかったです。切ないラブストーリーとして王道のつくりと、それを奇を衒った演出をすることなく正攻法で描いたアン・リーの監督ぶりに脱帽。王道ってよっぽど巧い人以外がやると陳腐なだけで終わっちゃう危険があるけど、逆に高い技術を持った巧い人がしっかり作り上げると極上のものが出来上がるんですよねー。私は特に序盤の展開の巧さに惚れました。二人が愛し合うまでの過程がいいんですよ。決して言葉に頼らず、風景描写や細かいエピソードの積み重ねで、台詞で説明する以上の説得力を醸し出しているのは正に名人芸。映画としてのパワーのなせるワザです。
主役二人も素晴らしい。ヒース・レジャーはもの凄いぶっきらぼうで台詞も抑揚があまりないため(←いや、そういうキャラクターだからしょうがないんだけど)、下手すると大根演技に見えなくも無いところを、時折劇的に炸裂する感情の演技でコントラストを成すことに見事に成功しています。特に久々の再会を果たした時の(来るまで)ソワソワ→(来たとわかって)笑顔!の流れが絶妙です。っていうかヒース・レジャーって顔に似合わず渋い声しているんですねえ。知らなかった。最初にしゃべった時は「A.I.」のクマさんがしゃべった時みたいな違和感がありました(笑)。
ジェイク・ギレンホールは「遠い空の向こうに」ぐらいしか出演作を見たことなかったんで、なんかフツーのお兄さん、という印象だったんだけど、今回こんなに芸達者な役者さんだったと知って驚き。要所要所でピンポイントな芝居をするレジャーに対し、こちらは全編通してまんべんなく巧いです。隙がない、というか。モーションかける時ににじり寄るように迫っていくのが素敵。
映画全体の雰囲気も凄く良かったなあ。ややニューシネマの香りがして、でも角を取ってソフトに仕上げたところがポイント。70年代映画のような寂寞とした美しさと映画黄金期のしっとりとしたタッチが融合していて見事です。ただ、贅沢を言えば、ラストに向けてさらに劇的な展開が欲しかったかなあ。いや、あれ以上やりようが無いのはわかるんだけど、「スケアクロウ」とか「噂の二人」とか「俺たちに明日はない」のようなガツンとくる(それでいてほんわかした余韻の残る)ラストを期待してしまったので…。まあでもこれは無いものねだり。非常に素敵なラブストーリーでした。
しかしこれ、どう考えても「クラッシュ」より出来がいいと思うんだけど…。アカデミー会員は何考えていたんだろう?